インターネットをめぐる米国判例・法律100選<改訂版>(2001年2月発行)を執筆した後に出された裁判例を掲載しています。
1.管轄
Stanley Young v. New Haven Advocate 2002 WL 31780988 (4th Cir.(Va.))
 
<判決日>
2002年12月13日

<裁判所>
第4巡回区連邦控訴裁判所

<ポイント>
 特定の州の住民のみを対象にした地方新聞社が、そのウェブサイトで他の州の住民の名誉毀損を行ったとされた場合でも、その州の裁判所の裁判管轄に服することはない。

<要約>
 被告らは、コネチカット州の住民のみを対象にした地方紙を発行する新聞社である。コネチカット州は、刑務所が飽和状態にあったため、囚人の一部をバージニア州に移す契約を締結した。被告らは、この契約に関する記事をウェブサイトにも載せたが、その中にバージニア州の刑務所長である原告に関する批判も含まれていた。原告は、被告らの記事が名誉毀損に該当するとしてバージニア州の連邦地方裁判所に訴訟を提起した。被告らは、バージニア州の連邦地方裁判所には管轄がないと主張したが、裁判所は、管轄を肯定したため、被告らが控訴したのが本件である。
 控訴裁判所は、州外の者に対する管轄を肯定するためには、以下の3つの要件が必要であるとした。
 (1)州内における直接的な電子的活動
 (2)その州において事業その他の活動を行う明白な意思
 (3)そのような活動が州裁判所において審理可能な請求原因となる可能性があること
 控訴裁判所は、被告らがコネチカット州の読者だけを対象にしてウェブサイトの記事を掲載していること、被告らがバージニア州における勧誘活動や営業活動をしておらず、電話による聞き取りをしたに過ぎないこと、バージニア州のメールでの読者も僅かしかいないことなどを理由として、上記基準が充たされていないと判断し、被告らに対する管轄を否定し、地方裁判所の判決を覆した。

<コメント>
 本件は、原告被告間に契約関係がある事案ではなく、名誉毀損の事案であり、いわゆるZippo判決のウェブサイト分類基準を用いてはいない。しかし、州外の者に対する人的管轄を認めるかについて、州外で裁判を受けてもやむを得ないと言えるほど、その州に関わりをもっているかという観点から基準を立てている点は同じである。
 最近では、地方紙でもウェブサイトを持っているのが通常であり、そのウェブサイトは、当該州民のみを対象としていても、他の州民もアクセスでき、他の州に関する記事を載せることもある。そのような場合に、常に他州において裁判を受けるリスクを負うとすると萎縮効果が生じ、言論の自由の観点からも問題であり、本裁判所が提起したようなやや厳しい基準も合理性があると考えられる。

<参考サイト>
Phillips Nizer Benjamin Krim & Ballon LLP